ビール

ダサいと思ってた大人に年を取るほど近づいてく。年下の経験と自分の経験を区別できなくなって物知り顔で諭してくるジジイが未来の自分に見えて殴りたくなる。暇でもないのに暇をつぶすために見たくもない画面を見る昼休みは、旅行、人との出会い、充実、やりがい、仕事、人生は一度きり、結婚。友達の家にある笑顔の写真をベタベタ貼って造花で飾りつけたコルクボード。幸せになりたいってより後悔したくないだけじゃねえかと毒づく。嘘も言わないかわりに本当のことも言わない会話が煙草の煙に混じって天井を汚しているのをぼんやり見ながら付き合いで飲む酒は嫌いだったビール。脳を占めるどろついた考えを薄めるようにいつしか家でも一人でビール。そうやって生きてしまった自分を守るために積み木で城作って布団に入ったのに、ふいにあたった腕で崩れた残骸を暗闇で見つめれば生ぬるい涙がうっとおしい。こんなんかよ、人生、世界、俺。