更新
「なんか…すごかったですね。」
「うん、濃かったね」
「私あの方たちが話してること正直あまりよくわかってないです」
「ねー大きな物語とかオルタナティブ音楽とか、ずいぶん盛り上がってたね」
「でも先輩は話ふられても答えられてたじゃないですか、すごいです」
「いやまぁ、適当に自分が思ったこと言っただけだよ」
「私は無理です、頭痛くなっちゃう。ばかだからなぁ。」
「いやばかじゃないって。いくら知識が豊富でも難しい言葉使えても、相手に伝えられてないならあっちだって至らないよ」
「そうですかねぇ」
「自分と価値観や視点の違う話って受け入れにくいよね」
「うんうん、そうですよね」
「だから自分の経験を頼りになんとか相手の話にまで行きつこうとするじゃん」
「…私はその経験が乏しいからなぁ」
「私もそうだよ。でも経験ってあってもなくても扱いが難しいと思う」
「どういう意味ですか?」
「遠い村に行くのに方位磁石がなくても困るけど磁気狂ってる方位磁石持ってても困るじゃん」
「ええ~まぁ、たしかに笑」
「経験は大切だし貴重な財産だけど、自分を支配する力も強いからさ、慎重になりたいなとは思う」
「ほぉ~。」
「…」
「…」
「…」
「でも私、あの方たちの難しい言葉にうんざりしちゃってあんまりわかろうとしてなかったです。遠くに見える村を眺めて『おぉ~遠いな…』って言って諦めちゃってました。そこは反省だなって思います」
「うーん、そっか、そうだね」
「無意識にこの人たちはこういう系の人かって失礼なカテゴリー分けしていたと思うんですよ」
「うん…それは私もしてたかな」
「でもそれじゃあもったいないですよね、せっかく会えたのに。あの哲学の奥にはそれにたどり着くまでのその人の感情があったんだろうって思うんですよ。それは私たちにもわかる簡単な言葉で言い表されるものなはずで」
「うんうん」
「そしてそれは誰にも共有されていない個人的なものなはずで。そこから紐解いていったら親近感湧くかなって思います」
「前提として共有されているものに差がありすぎると、おのずと疎外される人が現れるよね。今日の私たちのように笑」
「そうですよね笑 スタート地点を確認してそこにみんな並ぶようにする仕組みとか役割の人が必要ですね」
「あ~確かに。みんなが同じ声の大きさで話せる場が理想だよね」
「そうですね、今日は完全に委縮してしまった…」
「でもそこまでしてみんなを理解しようとすると疲れるよねものすごく」
「あ、うーん、そうですねぇ」
「苦しくならない?」
「どうだろ、私はなるべくしたいなって思いますけど」
「村の位置を確認するだけでも関わりとしては十分だとも思うけど」
「…うーん…そっかぁ」
「…」
「…」
「難しいね」
「難しいですね」
「でも難しいねで終わりたくないね」
「はい、少なくとも忘れずにいようと思います」
「そういうことを思えただけでもいい会だったね」
「たしかに」
答えが見つけられることよりも、こうやって更新されていくことのほうが大事なんじゃないかと、少し思ってマフラーに顔をうずめた。