関係には名前をつけなければいけないような気になるけど、本当はそんな必要はない。視線や沈黙を思い出す秋、木曜日、朝。わかりづらいことはわかりづらいままにしておくことにした。私たちは明日のプレゼンで発表されるわけでも、今週末の結婚式のスピーチで読み上げられるわけでもない。それくらいは許されるはず、と化粧水を肌にしみこませる。でも誰に?と鏡を覗きこむ。昼休み、階段ですれ違ったとき会釈しかしなかったけど、触れたあなたの冷たい手に胸が詰まった。こっそりトイレで塗った透明のマニキュアが光る指先、繋いでみた帰り道、ついに私の体温は伝わらなかった。でもその寂しさを誰にも話すことはないし、もちろんあなたにもない。スーパーで買ったお総菜に長めに手を合わせたりしていつもの私を取り戻す、そんなことだってもうできる。