都会

この街の人たちはいつも忙しそうで、声をかけられない。私もつられてやることがたくさんあるような顔をしてみるけどそれが何かはわからない。
立ち止まればぶつかる、方向転換をすればぶつかる、ぶつからないように歩いてもぶつかる。私ってこんなに歩くのが下手なのか。数㎝の雪が積もっただけで転んでる人たちをテレビ越しに指差して笑うんじゃなかった。何mの雪道よりもつるつるの氷道よりも都会の道は歩くのが難しい。
隙間に移動して人波を俯瞰する。なんでみんな行き先がわかるんだろう。律動的な足音が何千何万も頭のなかで重なって響く。私の行き先は黒い地面に吸われていく。
都会は、私なんていてもいなくても変わらないと、私の代わりはいくらでもいると、当たり前の現実を教えてくれる。だから待ち合わせ場所でたった一人の私に手を振ってくれる人をばかみたいに愛しく思う。約束をしないと会えない街で約束をして会うこと、その意味を大きく感じる。
立ち尽くしても埒はあかずにお腹は減る。しょうがないからレストランを探す。少なくて高い。財布の中身を心細げに覗いてため息をつく。犬用のクッキーが1000円していて社会の中の自分の位置がわからなくなる。ようやっと手頃な値段を見つけたと思ったらバイト募集の時給だった。

「257円です」
やっぱり味方はコンビニですよとひとりごちる。小銭を漁るとぴったり257円。思わず「あっ」と言ってしまったけどなんとなくその先は続けられなくておずおずと会計を済ませる。店員さんたちは声が大きくて動きが速い。「ありがとーございあしたぁ!」あ、どうもと言おうとしたらもう次のお客さんを相手していた。

はやいのだ。はやくて多くて忙しすぎるのだ。
泣きそうになって唇を噛む。
もっと誰かと出会いたい。
手を振る幸せがあればこの街で生きていけるかもしれない。もっとこの街を好きになれるかもしれない。